2007年04月04日 01:04 am
勝手なこと / チョン・ダビンさんのこと
韓国の女優、チョン・ダビンさんが亡くなったというニュースは、新聞で見て知りました。朝から、えーっ! と大きな声を出しました。
亡くなったのは、2007年の2月10日。自殺。首を吊ったのだそう。享年26。
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チョン・ダビンさんをわたしが知ったのは、『屋根部屋のネコ』というドラマでした。そして、そのドラマでしかわたしは彼女のことを知りません。
『屋根部屋のネコ』というのは、チョン・ダビンさんとキム・レウォンさんが主役のラブコメディです。
良質なドラマです。本当によく出来ている。「おすすめの韓国のドラマは?」ともし誰かから訊ねられるなら、わたしは迷わずこのドラマをあげるのです。
(以下、ネタばれになる文章を綴ります。気になる人は、読まないようになさってください。)
チョン・ダビンさんが演じたのは、ナム・ジョンウンという女性です。ジョンウンというのは、器量も良くない、学歴もない、金もない。しかも職もない、就職浪人3年目、という設定の女性です。不器用で、だけども、健気で努力家で働き者。
キム・レウォンさんが演じるのは、イ・ギョンミン。お調子者でボンボンで、ハンサムで成績優秀な法科の大学生。ギャンブルで借金をつくるような、ちゃらちゃらした若者です。
で、この二人は成り行きで、同棲をすることになります。
ジョンウンは、ギョンミンのことを好きになる。だけども、ギョンミンは他の女性に恋をしているのですね。実は、本当は、ギョンミンもジョンウンのことを好きらしいのですが、それに本人が気づくのは、ずっとずっと後です。
ジョンウンは、ギョンミンにさんざ振り回されます。また、生活の重みがずしりとのしかかるのは、いつもジョンウンの肩にです。お調子者のギョンミンは、気を持たせておきながらもジョンウンとの約束をすっぽかしたり、他の女性とのデート費用のために生活費を勝手に使い込んだりで、さんざジョンウンを苦しめます。だけども、それでも、ジョンウンはギョンミンに尽くすのですね。
他の部分では、まったく報われないばかりでもないのです。ジョンウンは、最初はアルバイトとして雇われた会社で認められ、遅々としてはいますがキャリアアップしていきます。また、恋するばかりでなく、恋されることも経験します。
惚れた相手のギョンミンに健気に尽くしながらも、苦しめられ続けたジョンウンは、しかしある時、彼を拒絶します。離れることを決意します。
…………。
どろどろの愛憎劇も、白血病も失明も出てきません。
健気なジョンウンと、鈍感でお調子者のギョンミンの、どたばたラブコメディです。
笑いと、切なさと、どきどきと。そして感動とが味わえる、本当に良く出来たドラマです。
ドラマの最終回の、最後のシーン。わたしはしみじみと「いいドラマだったなぁ」と思いました。あれだけ駄目だったギョンミンが、本当に大きく見えたこと。ジョンウンが、本当に、素敵な女性に見えたこと。
(ドラマのネタばれは、この辺りまで。)
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チョン・ダビンさんの訃報を聞いて。
実際に涙が出るわけではないのです。
ただわたしは、あるひとつのドラマを楽しく観たというだけです。チョン・ダビンさんの他の出演作を観てはいませんし、会ったこともない。彼女になにか辛いことがあったときにも、わたしは彼女の何の力にもなれてはいませんし、彼女が『屋根部屋のネコ』でのイメージばかりを求められることを、女優として心地よく思っていなかったということを知ってさえいるのです。
だから、わたしは勝手なことを言ってはいけない。
ただ、彼女の死を、ふと思い出すのです。そんな心の領域があることに、わたしは気付くのです。心のどこかでふと思い出し、わたしは泣いている。彼女の自死のことを。
あの『屋根部屋のネコ』の、あのやさしく健気で強かったジョンウンを演じた、あのチョン・ダビンさんは、自殺なんてしたら駄目だ。
無責任で勝手なことを言っていると、知ってはいるのです。勝手なことを言ってはいけないと、わたしは知ってはいるのですが。