Published by bkntmrg on 2009年09月09日 at 16:04
阪田寛夫『くじらの子守歌』
子守歌ときいてまず思い浮かべるのは、おかあさん、そして幼子、ではないでしょうか。
おかあさんのことが好きな幼子と、その子のことが好きなおかあさんの、やさしくおだやかな風景。手のひらのあたたかさと、やさしい声と……。
さて、この阪田寛夫さんの『くじらの子守歌』はどうでしょう。この詩には「おかあさん」も「幼子」も出てはきません。また、「ふるさと」というようなも のも出てはきません。「おかあさん」のかわりをつとめる「おねえさん」もいません。出てくるのは、くじら、うみ、なみのおと、わたし。
少し、変わった子守歌ですよね。
この詩には、読む人にためらいなく心を開かせるような、そこはかとない安心があります。眠ったあとで、そっと毛布をかけてくれるような、なぜか、そういうやさしい気配をも感じます。
この詩は、おだやかなねむり、そのイメージを大人の心にもくれます。誰もがこの詩の「わたし」になって、しずかなうみのそこの、くじらに会いにいける。くじらのねむり、うみのねむりが、「わたし」のねむりとかさなって……。