先月の20日に、鴨志田穣さんが亡くなりました。腎臓ガン。42歳でした。
鴨志田さんというのは、フリーのカメラマンで、かつ文筆家。漫画家の西原理恵子さんの元夫で、そして内縁の夫でした。
訃報を聞いて、bkntmrgはショックで、しばらく涙が出ていました。
鴨志田さん……カモちゃんが、もうながくは生きられないということを、他の多くのファンと同じように、わたしもまた少し前から知っていたのです。知っている気がしていたのです。ですが、ショックでした。
(ああ、本当に、亡くなっちゃうんだな。亡くなっちゃったんだな。)
喪主は西原さんでした。再び同居はしたけれども、籍を入れることはなく、でもやっぱり、二人は本当に夫婦であったのですね。
西原さんと、そしてまだ幼い二人のお子さんとが、悲しんでいるんじゃないかしらとふと想像しては、わたしもまた、悲しいような気分になります。
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わたしは鴨志田さんの文章が好きでした。もの書き臭さがない、企みのない、良い文章です。一般的にはうまいという文章ではないのでしょうが、わたしはうまい文章だと思う。良い文章です。わたしは好きなのです。
一方で、鴨志田さんの撮る写真というのは、特別誉めたくなるような、そういう派手なものではなかったようにわたしは思うのですが、ただ、とびきり印象に残っているものがあります。
『鳥頭紀行 ― くりくり編』という本のなかに、それはあります。
44頁目(ミャンマー出家編の鳥頭余話)。海のなかに首まで浸かって、笑顔を見せている西原さんが、アップで映っています。
あるいは60頁目(九州タコ釣り編の鳥頭余話)。船の端で、夕暮れの水平線をバックに、やっぱり西原さんが映っています。
それらの写真をはじめて見たときに、わたしは感じ入ってしまったのです。
今あらためてその写真を眺めてみても、やはり、同じ感想です。
(……カモちゃんって、ほんっとに、西原さんのこと好きなんだなぁ。)
西原理恵子さんは、外見のなかなか可愛らしい人なのですが、カモちゃんの撮ったその二つの写真は、可愛いとか綺麗とか美人だとか、そういう感じではないのです。
だけども、とてもきれいな写真です。
カメラを持つカモちゃんの、心の声が聞こえてくるようなのです。
”……いい女だなぁ、……きれいだなぁ”
ひとりの女性を前に、ため息をついている。感嘆している。あれらは、そういう写真です。
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AERAという雑誌に、鴨志田さんの告別式のことが、記事になって書かれてありました。(貧乏ですみません。立ち読みしました。)
西原さん、泣いてたって。そうか。泣いてたのか。わたしも泣けてきそうでした。(立ち読みだったので、涙は堪えました。)
「アルコール依存症というのは、8割が死に至る恐ろしい病気であり、それと闘い打ち勝ったカモちゃんは本当は意志の強い人間なのだと、そう覚えておいてほしい」とか。「一緒に暮らした最後の半年間が、本当に幸せだった」とか。そういう内容の、西原さんが語った言葉が、たくさん書かれてあったのですが、なによりも胸が痛くなるような、泣くのを堪えるのがつらいような、そういう気分になったのは、記事の最後に書かれていた部分です。
西原さんは、骨になったカモちゃんに向かっていって、こう言ったそうです。
「成仏しなくてもいいよ。一緒におうちに帰ろう。」
これを書きながらも、胃のあたりがきゅーとしぼんで、わたしは泣いてしまいそうなのです。