Archive for the '本' Category

2009年12月19日 01:58 am

2009年前半に読んだ本

 2009年の前半に読んだ本です。読書については熱意があまり沸かない時期で、しかし書きはじめてみれば結構な長文になりました。図書館からの貸出票をめくり、思い出しながら書いています。
 長文です。興味のある方は続きをどうぞ。
 
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2009年09月14日 06:30 pm

読書感想文 : 干刈あがた「ウホッホ探検隊」

 干刈あがたさんの『ウホッホ探検隊』という短編小説が良かった。気付かぬうちに泣いていた。

 「離婚」というものに出会った家族の話だ。離婚のその前後の家族の様子、特に母と子の三人の様子を、母親である女性が淡々と見つめ辿っていっている。そういう静かな話だった。
 わたしにとっては、題名しか知らないうちには手に取る気にはならなかった作品であって、読後の今もこの題名に賛成をしないのだけれど、作品はとても良かった。

 主人公の、他者との距離の取り方が、まずわたしは好きなのだと思った。他者である我が子たちや元夫の心のなかを勝手にのぞき込んで決めつける、ということがないこと。そういう描写をしていないこと。そう感じさせる、この文体がまず好きだ。 
 丁寧に辿っていっている情景への、語り手・主人公の焦点が、定まったままではなく、焦点のその位置が途中何度か微妙にずれていって、そしてそのままであること。また、最後にすべてを収束させるというわけでもなく終わること。そういう感じも、わたしには好みだった。少しだけねじれている感じと、閉じないままで終わる、流れていくように終わる感じ。

 離婚というものをほとんど知らないわたしが思わず知らず泣いてしまったのは、この小説に描かれている誰かの心情に感情移入し心震えたからではないのだと思う。
 主人公は静かである。微かに震える感じはあるが、騒いでいない。震えつつ、観察している。自分の気持ちや子らの気持ちを、すべて感じ取ろうとしている。丁寧に、静かに観察し辿っていっている。結果、この小説に描かれているのは「場」だ。離婚というものに出会い、たましいだけで泣いて、そして生きることが続いていっている。そういう、ある母子のいる「場」が描かれている。
 たましいだけが泣いているような、微かに震えるような、静かな文章。そして、そういう文章で描かれているのは、やはり、たましいだけが泣いているような「場」であって、わたしはそれにすっかり包まれてしまい、登場人物よりも、誰よりも早く、思わず実際の涙で泣いてしまったのだという気がする。

2009年07月02日 01:10 am

2008年の後半に読んだ本

 2008年の後半に(主に図書館から借りて)読んだ本の中から特に印象に残ったものを挙げ、簡単な感想・寸評を付け加えていきます。
 本のタイトル部分のなかには、 Amazon.co.jp の当該ページへのリンクになっているものがあります。 あらすじや他の方のレビュー等が気になる方は、ご活用ください。(アフィリエイトリンクです。嫌悪感がある方は購入時に注意をお願いします。)
 ◆は児童文学、◇は児童文学以外の本です。

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2008年07月11日 12:14 am

映画『西の魔女が死んだ』を観ました

 (原作を読んだ感想 → 空 瓶 通 信 » 梨木香歩『西の魔女が死んだ』

 先月末に、映画『西の魔女が死んだ』を観てきました。
 原作を読んでいましたので、わたしにとっては何一つわからぬところのない物語でした。その点が、少しだけ残念ではありました。映画を最初に観ていたら、また違う鮮烈さで、この映画を受けとめたという気がするからです。
 ですが、観て良かったです。主人公の少女の表情が、今も心によみがえってきます。

 ということで、映画の感想です。興味がおありの方は、続きをどうぞ。

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2008年06月15日 01:34 am

2008年の前半に読んだ本

 今年前半に読んだ本の中から、印象に残ったものをご紹介します。長いので、お茶の準備をしてから、どうぞ。
 本の内容や評判など、更に詳しく知りたいという方のために、本のタイトルから Amazon.co.jp へと行けるようにリンクを張っています。
 
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2008年02月16日 02:02 am

2007年に読んだ本のなかから幾つか

 本を読むことは素晴らしいことでもなんでもない、というのがわたくしのずっと変わらぬ持論なのですが、しかしそんなことを言っているわりには、わたしは少し読み過ぎていると思うのです。昨年は、月に30冊のペース。でも今年は、その三分の一以下に落としたいと思っています。

 もう2008年も2月半ばですが、今日は2007年に読んだ本のなかから、幾つかの本の感想を書きます。だいたい読んだ順に並べています。
 内容については忘れてしまったところも多く、読んで下さる方に不親切な感想になっているはずです、すみません……。また、もし間違いを見つけた方は、指摘してくださると嬉しい。

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2007年09月27日 10:09 pm

梨木香歩『西の魔女が死んだ』

西の魔女が死んだ (新潮文庫) 河合隼雄さんが「思春期の少女の心理がよく描けている」と何処か(書名を失念)で紹介しておられたので、それで読んでみました。児童文学を私は好きなのですが、手に取るのは翻訳物がほとんど。日本産のものを読むのは、あまりないことなのでした。
 これは面白かった。

 少し変わっている本だな、という感想が一番最初でしょうか。宗教書のような感もあります。思想書と呼ぶのもおかしくないですね。ジャンルは、うーん、やっぱり児童文学でしょうねぇ。しかし、そう言い切ってしまうのも、枠が狭いような気がして、微かではありますが、違和感があるかなぁ。

 この本は、きっと様々な読み方をされていると思います。身近な人を亡くしたばかりの人は、その悲しみを少し癒せる、ということもあるかもしれません。自らが死への恐怖から目をそらせなくなっている人には、少し心を軽くさせるようなことが書いてある、かもしれません。また、生きていくうえでの、指針となるような考え・言葉に、出会うという人もいたのではないかな。それ程に重いものではなく、素敵なライフスタイルだなぁなんていう感想の人もいるでしょう。また、自然のすばらしさや、古き良き時代の人々の知恵なんていうことを考えた人もいたかな。それとも、主人公の少女まいの母親が、まいのおばあちゃん・<西の魔女>に対して反発をも抱くように、読んで「ケッ」なんて言って、白けてしまうという人もいるでしょうね。また、まいの父親のように、よくわからないなぁと感じたまま、距離を保つという人もいるでしょう。
 ちょっと変わっている本です。私は変わっていると感じました。
 詳しい内容については触れません。興味をお持ちになった方は amazon へのリンクをはっていますので、そちらへどうぞ。上の画像からも行けます。(→ 梨木香歩 『西の魔女が死んだ』

 私の場合は、面白く読みました。思春期の少女まいの姿が、私自身の姿と重なったり、それとも、<西の魔女>の言動が、これは bkntmrg のものだな、と思わされたり。私の心のなかには、まいも<西の魔女>も、どちらも存在しているような気がしてしまいました。

 これは本筋とは少し離れた感想ですが。
 「扱いにくい子」と言われて傷ついたまいには、その先も幾度も傷つき続けてしまう前に、ちゃんと掬いあげてくれた人がいたんだなぁ、いいなぁ。……なんてことを思ったり。(「扱いにくい子」と言われて傷ついたことはないのですが、同じようなことで、かなしい思いを、よくしてしまう私なのです。)
 「いつも自信に満ちている」と面と向かって評されてしまったとき、<西の魔女>は、きっと孤独やさみしさをなんかも、感じただろうなぁ。……ということを思ったり。

 設定や展開が、ちょっとうまく出来すぎではないか、そんなふうに思わせてしまうところはあって、それがこの作品の隙であろうなとは思うのですが、でも、私は読んで良かったです。私には面白かった。
 「何でも自分で決めること」「生活の基本を大事にして、精神を鍛えること」「外部からの刺激に動揺しないこと」などなどなど。私自身が心に持っていた指針の幾つかを、再度、思い出させた本でした。

2007年08月23日 02:08 am

夏の海辺

4062066912 トーベ・ヤンソン『少女ソフィアの夏』

 昨年の夏の終わりに、海辺で読んだのがこの本です。
 砂浜にゴザを敷いて、日傘を立てかけて。その時のわたしの服装は、素敵なワンピース……とでも言いたいのですが、本当はジーンズと半袖のブラウス。靴を脱いで。

 
 読み終えてしまいたくなくて、度々しおりをはさんでは、ぱたんと閉じました。そして、ころんと仰向けに寝ころんで、しばらく目を閉じたりして。
 波の音を聴いていました。この物語が、もう少し続いたらいいのにな、と思いながら。

2007年06月15日 09:06 pm

ガブリエル・バンサン『セレスティーヌのおいたち』

セレスティーヌのおいたち     くまのアーネストおじさん

 「くまのアーネストおじさん」シリーズの最終巻。わたしはこのシリーズのなかで、これを最初に読みました。絵本です。訳は、もりひさしさんです。
 セレスティーヌはねずみの女の子で、アーネストは大人のくまです。二人は一緒に暮らしています。「くまのアーネストおじさん」のシリーズは、繊細な絵と文で、二人の生活を描いたものです。
 
   ◆  (この先、少しネタばれがあります。)
 
 セレスティーヌはある日、アーネストに、あることを訊ねます。それは彼女にとってどうしても訊きたい、どうしても知りたいことなのです。しかし、勇気が出せずに、なかなか言い出せないのでした。

 アーネストは、そんなセレスティーヌの様子に、はっと息をのみます。(ああ この子は 知りたいことが あるんだ)(ぼくは この日が来るのを ずっと おそれていたんだ)

 セレスティーヌにも、アーネストにも、心の準備の時間が要ります。そして、やがて、
(あの子の 知りたいこと ぜんぶ 話してあげよう) アーネストは覚悟を決めます。

「わたしはどんなふうに生まれてきたの?」 セレスティーヌは、やっと訊けました。やっと言葉に出来ました。

 そしてアーネストは語り始めます。
 
   ◆
 
 この物語は、つらい真実とそして幸福とを、二人で受け入れていくという、美しい着地をします。その様子が、本当に丁寧に、繊細に描かれています。

 切ないやりとりが、わたしの胸を打ちました。

2007年04月01日 11:04 pm

カモちゃんのこと

 先月の20日に、鴨志田穣さんが亡くなりました。腎臓ガン。42歳でした。
 鴨志田さんというのは、フリーのカメラマンで、かつ文筆家。漫画家の西原理恵子さんの元夫で、そして内縁の夫でした。

 訃報を聞いて、bkntmrgはショックで、しばらく涙が出ていました。
 鴨志田さん……カモちゃんが、もうながくは生きられないということを、他の多くのファンと同じように、わたしもまた少し前から知っていたのです。知っている気がしていたのです。ですが、ショックでした。
(ああ、本当に、亡くなっちゃうんだな。亡くなっちゃったんだな。)

 喪主は西原さんでした。再び同居はしたけれども、籍を入れることはなく、でもやっぱり、二人は本当に夫婦であったのですね。
 西原さんと、そしてまだ幼い二人のお子さんとが、悲しんでいるんじゃないかしらとふと想像しては、わたしもまた、悲しいような気分になります。
 
   ◆
 
 わたしは鴨志田さんの文章が好きでした。もの書き臭さがない、企みのない、良い文章です。一般的にはうまいという文章ではないのでしょうが、わたしはうまい文章だと思う。良い文章です。わたしは好きなのです。

 一方で、鴨志田さんの撮る写真というのは、特別誉めたくなるような、そういう派手なものではなかったようにわたしは思うのですが、ただ、とびきり印象に残っているものがあります。

 『鳥頭紀行 ― くりくり編』という本のなかに、それはあります。
 44頁目(ミャンマー出家編の鳥頭余話)。海のなかに首まで浸かって、笑顔を見せている西原さんが、アップで映っています。
 あるいは60頁目(九州タコ釣り編の鳥頭余話)。船の端で、夕暮れの水平線をバックに、やっぱり西原さんが映っています。

 それらの写真をはじめて見たときに、わたしは感じ入ってしまったのです。
 今あらためてその写真を眺めてみても、やはり、同じ感想です。
(……カモちゃんって、ほんっとに、西原さんのこと好きなんだなぁ。)

 西原理恵子さんは、外見のなかなか可愛らしい人なのですが、カモちゃんの撮ったその二つの写真は、可愛いとか綺麗とか美人だとか、そういう感じではないのです。
 だけども、とてもきれいな写真です。

 カメラを持つカモちゃんの、心の声が聞こえてくるようなのです。
 ”……いい女だなぁ、……きれいだなぁ”
 ひとりの女性を前に、ため息をついている。感嘆している。あれらは、そういう写真です。
 
   ◆
 
 AERAという雑誌に、鴨志田さんの告別式のことが、記事になって書かれてありました。(貧乏ですみません。立ち読みしました。)
 西原さん、泣いてたって。そうか。泣いてたのか。わたしも泣けてきそうでした。(立ち読みだったので、涙は堪えました。)

 「アルコール依存症というのは、8割が死に至る恐ろしい病気であり、それと闘い打ち勝ったカモちゃんは本当は意志の強い人間なのだと、そう覚えておいてほしい」とか。「一緒に暮らした最後の半年間が、本当に幸せだった」とか。そういう内容の、西原さんが語った言葉が、たくさん書かれてあったのですが、なによりも胸が痛くなるような、泣くのを堪えるのがつらいような、そういう気分になったのは、記事の最後に書かれていた部分です。

 西原さんは、骨になったカモちゃんに向かっていって、こう言ったそうです。
 「成仏しなくてもいいよ。一緒におうちに帰ろう。」

 これを書きながらも、胃のあたりがきゅーとしぼんで、わたしは泣いてしまいそうなのです。

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