2009年の前半に読んだ本です。読書については熱意があまり沸かない時期で、しかし書きはじめてみれば結構な長文になりました。図書館からの貸出票をめくり、思い出しながら書いています。
 長文です。興味のある方は続きをどうぞ。
 

 2009年前半に読んだ本の中から特に印象に残ったものを挙げ、簡単な感想・寸評を付け加えていきます。
 本のタイトル部分は、 Amazon.co.jp の当該ページへのリンクになっており、クリックすると別窓が開きます。あらすじや他の方のレビュー等が気になる方はご活用ください。なお、アフィリエイトリンクです。嫌悪感がある方は購入時に注意をお願いします。
 ◆は児童文学、◇は児童文学以外の本です。
 

2009年1月に読んだ本

 1月は、図書館から12冊、借りて読みました。

サンドウィッチマン『敗者復活』
 M-1グランプリで優勝したコンビの芸人、サンドウィッチマンの二人が書いた本です。M-1グランプリというのは吉本興業が主催する漫才の選手権大会。彼らは第8回、2007年の優勝者です。
 特別なものはない、わたしと同年代の若者の姿がそこにはあって、その何でもない感じ、普通さがわたしにはおもしろかった。すべての人に歴史があるということに触れるおもしろさ。そして、笑いの芸と、奇異な生い立ちやエピソードとは、いつでも必ず繋がるわけではないのだ、ということ。ウェットさも大袈裟な感じも奇をてらうこともはしゃいでいる感じもない、ほどほどにまじめな、感じの良い半自伝本でした。

ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』
 ホラー短編集です。荘厳かつドライな文体で、わたしは好きでした。
 作者の父はスティーブン・キング。親子で作家なのですね。どちらも凄腕の。
 

2009年2月に読んだ本

 2月は14冊。

W.H.アームストロング『父さんの犬サウンダー』
 しみじみと悲惨です。貧困と戦争と人種差別の話。ニューベリー賞受作品です。
 『モスキート・コースト』という小説(ハリソン・フォードとリバー・フェニックスの主演で映画化もされている)をわたしは思い出してしまいました。あれ(小説のほう)ほどドラマチックかつ衝撃的な展開ではないのですが、ほんとうに、しみじみと悲惨です。
 展開はゆっくりとしていて、そして、事態は良くなっていくことはないのでした。「父さん」とサウンダーに哀悼を。

荒川洋治『日記をつける』
 荒川さんは詩人です。日記をつける、ということについて書かれた本。
 これはおもしろかった。買って、手元に置いておきたい気がしています。うーん。買おうかなぁ。
 いくつかの記述を、メモにとって残し、たまに読み返しています。

古田足日『大きい1年生と小さな2年生』
 すこし大柄な1年生の男の子が主人公。小さな2年生というのは、その友達の女の子です。
 エピソードの一つ一つが鮮烈というよりはほのぼのぼんやりとしている、というふうにわたしには感じられるのです。だけども、やっぱり、鮮烈な成長のお話であって、でも、のんびりした、あたたかな感じでもあります。どうでしょうね。良い本です。

クリスティーネ・ネストリンガー『きゅうりの王さまやっつけろ』
 食卓に出された大きなきゅうりを、きゅうり嫌いの子供が四苦八苦しながらどうにか食べてしまうというお話、ではないのでした。きゅうりの世界の王様が勝手に家にやってきて居座り、あれこれわがままを言うため家族は分裂し、あげくに近辺を侵略していこうとするので主人公たちが立ち上がりやっつける、というお話です。
 本物のきゅうりの王様なんて見たことも聞いたこともありませんが、でも、とてもリアルに描かれているのです。きゅうりの王様が、これがまた嫌な奴なのです。そして、どうにも気持ちの悪い奴なのです。それがよく伝わってきます。
 

2009年3月に読んだ本

 3月は29冊。

マリー・ソフィ・ベルモ『レアといた夏』
 島の景色のきれいさが、文章から伝わってくる感じがして、それで印象深かったのでした。
 内容は、ひと夏を過ごすためにその家にやってこさせられた女の子と、その家の子、ダウン症の女の子との邂逅、でしょうか。優等生的な展開のような気がしてしまったわたしなのですが、でもそれは、わたしがすれた大人であるからかもしれません。

川崎洋『ママに会いたくて生まれてきた』
 読売新聞に「子供の詩」という欄がありまして、その選者をしている川崎さんによる本。表題も、その「子供の詩」に採用された詩の言葉です。ああ、川崎さんが選者であったころの「子供の詩」欄は、毎日とても素敵だったなぁ……。
 この本で再び取り上げられた子供の詩は、やはり、読むとあたたかな可笑しみに包まれます。楽しいです。

ポール・オースター『ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉』
ポール・オースター『ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈2〉』
 ラジオ番組で「あなたのお話を聞かせてください」と呼びかけました。送られてきた文章のなかから、パーソナリティーのポール・オースターさんが選んで、読み上げる。そのようにしてラジオで取り上げられた体験談のなかから、さらに選び、まとめた本です。
 最初の二つのお話に非常に惹かれて、それで最後まで読みました。テーマごとにまとめられているのですが、そうではなく、ごちゃまぜにして編んで並べていったほうが面白く読めたのではないかという気がするのです。でも、〈1〉と〈2〉、一気に読んでしまいました。

エルケ・ハイデンライヒ(著)、ベルント・プファー(絵)『耳をすませば』
 主人公の女性は、少女期のあるひと夏を、大好きなおじさんのいる田舎で過ごします。その夏の出来事と、その後の人生のことを、主人公自身が語ります。絵本よりの児童文学です。独特な絵で、それも魅力があり、印象的です。
 主人公の女の子は特殊な能力を持つのですが、しかし何も特別なことは起こらない。そこがとてもとても良かったのです。特に何も起こらず、静かで、淡々としていて、あたたかで清廉。過日のあたたかな記憶を、わたしもまた、思い出したくなりました。 

夏樹静子『腰痛放浪記 椅子がこわい』
 激しい腰痛に悩まされた著者の、それと闘っていく様を詳細に記した本です。
 原因も治療法も特定できなくてさまよう様子や、著者が抱えた痛みの激しさ、苦悩の大きさももちろん心に残りましたが、一番印象的であったのは、「心身症」という診断を強固に頑なに拒否し続けた著者の姿です。

 心が関係しそうな病に対して、「それは(心が)弱いせいだ」という印象を持つ人は多くいるのですね。そして、たとえば鬱病だったり心身症でもいいですがそういう病名を聞かされたとき、「私/あの人は、そんな弱い人間じゃない!」と悲しんだり憤ったりして強い拒否反応を示す人も多くいるようですよね。
 「(心の)弱い人間」、「弱い」という言葉を侮辱の言葉だと捉える人も多くいるのだということに、わたしは、いつも少し驚かされます。
 「あの人もまた弱い人間だ」「そして、それは、私もまたそうであるのと同じだ」と、この対になるフレーズをわたしはたびたび思い、生きてきているのですよね。ときに言い聞かせるように、思っている。「誰も弱い人間である」 これは、人を愛したり赦したいと思うときに、かかせない言葉なのでした、わたしにとっては。

ポール・オースター『リヴァイアサン』
 のちに読んだ『ミスター・ヴァーディゴ』も好きでしたが、これも良かった。ポール・オースターさんは、わたしは好きなようです。
 語り手による、ある男への長い長い追悼文。ある男との関わりと、そしてその彼の人生について、語り手が読み解こうと努めつつ、語っているという体裁の小説です。
 最後、少しだけもらい泣き。涙ぐんでしまいました。

堀越千秋『スペインうやむや日記』
 この人の文章、好きです。自意識過剰ではなく、疾走していく文章。ときにあははと笑いました。おもしろかった。
 作者は、画家であり、フラメンコの唄い手(踊り手ではなくて)でもある人です。作者とその周りの人たちの生活をえがいたエッセイです。辛口なのですが、とてもしなやかで、風のようでもあります。こういう文章を書ける人はいいなぁ。
 

2009年4月に読んだ本

 4月は32冊でした。

ルース・ホワイト『ベルおばさんが消えた朝』
 12歳の少女と少年との友情の話です。印象的であったのは、その二人の友情と、決してハッピーという感じではないその終わり方です。
 ベルおばさん失踪の事実が、周囲の人の心に、どのように着地していくのか。謎の行方は……。わたしはこういう終わり方、好きです。決してハッピーという感じではないですが。

ジーン・クレイグヘッド ジョージ『ぼくだけの山の家』
 男の子が、ニューヨークの家からひとりで家出して、深い森の奥で暮らし始めてしまう、その森の生活を描いた児童文学です。50年も前の作品だそうで、だからでしょうか。男の子は無理にすぐさま連れ戻されたりすることはないのですね。それなりの期間、森の生活を、黙々と、たくましくのびのびとやってのけます。
 自然の厳しさばかりではなく、人間(じんかん)のぬくもりや、自然の持つあたたかみや軽さも同時に描かれていて、それが良かったです。

川崎洋『あたま悪いけど学校が好き』
 前出の『ママに会いたくて生まれてきた』と同様で、子どもの詩をとりあげた本です。ですがこちらは、詩作品ではなく、川崎さんの文章が多いですね。
 

2009年5月に読んだ本

 5月は29冊。

中村ユキ『わが家の母はビョーキです』
 コミックエッセイです。統合失調症を患う母親と、その家族の生活を、娘の視点で描いている本。
 重さを感じさせない絵や語り口だと思いますが、なおのこと、切なさが増すかな……。
 統合失調症って、ありふれていない病気でも実はないはずなのですが、鬱病ほどには知られていない病気でもありますね。

松谷みよ子『ふたりのイーダ』
 松谷みよ子さんでわたしが最初に手に取ったのは、現代の民話の本、こわい話や都市伝説などを集めた本でした。それで今、モモちゃんとアカネちゃんのシリーズや、この『ふたりのイーダ』などを含めて振り返って、ああ、なるほどなるほど、と思っているところです。
 『ふたりのイーダ』は有名な作品だと思いますが、はじめて読みました。こういうお話だとは思いませんでした。原爆の悲劇、戦争の悲劇を書いた物語です。モモちゃんのシリーズや都市伝説などとも通じる怖さがあります。

モーリス・ドリュオン『みどりのゆび』
 童話ですが、大人が読んだ方が距離感をうまくつかめて、いいのかもしれない本だと思います。
 平和への願い、ということを一番に感じ取る人も多いかなと思うこの本ですが、わたしが一番に感じたのは、才能があるというそのこと。才能は呪いでもある、と、いつか誰か言ったかしら。主人公チトの行く末を案じなくてもいいという点では、このラストは良かったのかもしれません。
 

2009年6月に読んだ本

 6月は41冊。

カレン・クシュマン『ロジーナのあした―孤児列車に乗って』
 里親を探す列車の旅に、出させられた孤児たちを描いた児童文学です。
 結末は、すれた大人のわたしにはすっかり予想が出来たりもして、ですが、読んで良かったのだと思います。主人公の少女の芯の強さが印象的で、表紙の絵とあわせて、たまにふっと思い出します。

レベッカ・ブラウン『体の贈り物』
 エイズ患者の家へ介護をしにいくホームケアワーカーが主人公の連作小説。
 どう言えばいいのでしょう。疲れ、かな。死を含めての、人間の、人生の疲れ。そういうものを描いていると思う。そして題名に再び目をやり、そうか、体か、体を描いているのか、とも。この小説からわたしが感じたものを、まるでうまく言えないのですが。心震わされました。
 誰にも感情移入しすぎない淡々とした語り口で、だからこそ、この距離感で、読者にも立ち会わせてくれるのだろうと思います。この本にある、十一の場に。

レベッカ・ブラウン『家庭の医学』
 癌の母親を看取るまでを描いた私小説風の小説。『体の贈り物』が良かったので読みました。これも読んで良かった。
 同じく淡々とした語り口で、詳細が描かれています。徐々に消えていく命や、周りにいる家族や、雑事や、いろいろのことが。

ポール・オースター『ミスター・ヴァーティゴ』
 ひとりの少年の不思議な一生を描いた、現代の寓話。
 少年がある力を得るまでを読むのが、わたしはなんだか気持ち悪くて嫌だったのですが、後半は好きでした。少年の挫折のあとの物語のほうが、わたしは好きです。
 しかし、こういうほろ苦さを好きだと感じてしまうのは、わたしが大人であるからでしょうか。

エレナ・ポーター『スウ姉さん』
 自分のことはなんでも後回しで、一家の何もかもを背負って、だけども明るく生きているスウ姉さん。こういう人が、いつの時代もどの国にもひっそりといて、その人たちが最後にはしあわせであればいいなぁと。この本を読む人は皆、そう思うでしょうね。
 スウ姉さんに対する労りや感謝の心を、他の兄妹が最後にあんなにすんなりと持てたのは驚きでしたが、でも、良かった、と胸をなで下ろしました。

芦原すなお『オカメインコに雨坊主』
 あるアンソロジーでこの中の一篇を読み、それからあらためて手に取りました。短編小説集です。偶然たどり着いた町で、画家である主人公は暮らし始めます。そして、風変わりであたたかな住人たちと出会い語らい……。
 この作品を読んで以来、芦原すなおさんを好きになりました。芦原さんの書くキャラクタは、男性も女性も、わたしの恋人とちょっと似ている気がします。それとも、恋人の書くキャラクタ(恋人は物書きなんです)と、似ている気がしています。
 わたしのなかの「好き」というのは、なかなか一貫していて、そのことにまた気付かされました。

ラリー・バークダル『ナゲキバト』
 思い出すだけで、少し涙ぐんでしまう本です。心震えました。
 詳細は Amazon.co.jp へリンクをしていますので、そちらからどうぞ。
 わたしの感想は、本を買って手元に置いて、それからあらためて書くことにしたいです。

小林信彦『東京少年』
 疎開の経験を主に書いた、小林信彦さんの自伝的小説。小林信彦さんは好きなのです。
 他よりも少しだけ大人びた子どもたちが描かれているように思えるのですが、しかし、実際、子どもというのはどこかいつも大人びてもいますよね。そういうことを思いました。
 

おしまい

 2009年前半は、図書館から借りた本は157冊。月平均は26.2冊。そして、今回取り上げたのは、28冊でした。
 4月から後の半分はこの数時間で書きました。途中で灯油の補給をしました。
 それでは。読んで頂いたすべての方に感謝を。おやすみなさい。